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No.7「1石トランジスタ回路の設計」
えー、
前回の記事でゲルマニウム・ラジオを製作しました。 <<前回の記事: No.6「ゲルマニウム・ラジオの製作」>> 今回はその続きです。 ゲルマニウム・ラジオの音量をトランジスタで増幅しましょうということです。 どんなに複雑な回路でも、基本は同じです。 トランジスタを5個や10個使うような回路が設計出来るようになる為には、 まずトランジスタ1個(1石といいます)での設計が出来なければ無理ですよね。 そして、トランジスタ1石の設計がちゃんと出来れば、その後トランジスタが増えても理解し易いと思います。 だから、単純過ぎてつまらないと思うかもしれませんが、とても大事なんです。 じゃ、いきます。 トランジスタ1石の回路を設計します。 「たった1つで何が出来るのか?」「どこまで出来るのか?」っていうことです。 最初に決めるのは増幅回路の種類です。 トランジスタの基本的な増幅回路には3種類あって、それぞれ特徴があります。 なお、昔は「接地」という言葉を使って「エミッタ接地回路」などと呼んでいたものを 最近では(少し前から)必ずしも0VのGNDが接地(側)というわけではない場合もあるということで、 混乱を避ける為に「共通」という言葉で「エミッタ共通回路」などと呼んでいます。 だけど初心者は余計に混乱しますよね。呼び方が違うだけだと思って正解です。 気圧の単位が「ミリバール」から「ヘクトパスカル」になったのとか 球団名が「ダイエー・ホークス」から「ソフトバンク・ホークス」になったようなもんですかね。 なので、古い本と新しい本、今の人と昔の人(笑)で書き方が違うことがしばしばありますが、 適当に頭の中で脳内変換して読んでください。 それでは3つの基本的な増幅回路です。 トランジスタには「エミッタ(E)」「コレクタ(C)」「ベース(B)」という3つの端子があり、 そのどれかを共通(接地)にして、あとの2つを入力と出力にするのです。 【エミッタ共通回路】 電圧利得も電流利得もバランス良くある程度稼げますので、電力利得が大きいです。 ゆえに、一般的によく使われています。位相が反転します。 (図1-1) 【コレクタ共通回路】 電圧利得は1ですので電圧は増幅されません。電流利得が大きいです。位相は反転しません。 エミッタ電圧が常に入力電圧の0.6V下にフォロー(連動)するので「エミッタ・フォロワ」とも呼びます。 入力インピーダンスが高く、出力インピーダンスが低くなります。 (図1-2) 【ベース共通回路】 電圧利得はある程度あります。電流利得は1ですので電流は増幅されません。 位相は反転しません。 (図1-3) どれを選ぶかは自由です。 ただ、1石の場合、または2石以上を組み合わせる場合の1段目には 利得がバランス良く得られるエミッタ共通回路が良いでしょう。 一般的によく使われているというのも納得です。 ということで、ここではエミッタ共通回路を使うことにします。 エミッタ共通回路を使うということに決まりました。 つまり、「ベース(B)」から入力した信号を増幅して「コレクタ(C)」から出力するわけです。 そこで、最初に「ベース・バイアス」というバイアスをかけます。 入力から入ってくる信号は、何もしていない状態であれば0Vを中心とした波形です。 (図1-4)上下を行ったり来たりする、交流的な信号です。 これを直流の世界へと入力するのです。 トランジスタのベースから入力して、増幅してからエミッタ接地ならコレクタから出力されますから そのコレクタ電圧の範囲(電位)の中心に波の中心が来るように、ベース入力の電位を決めます。 (図1-5) このベース入力電圧が適切でないと、コレクタから出力される波形が上や下にはみ出てしまいます。 はみ出た部分は波形がクリップしてしまい、音が割れたり、まともに鳴らなかったりします。 (図1-6) まともな音を出す為に、増幅度を充分確保できるように、適切な動作点に電位を設定するのです。 これが「バイアスをかける」という作業です。 入力された信号を増幅した段階で波全体が使える範囲内に収まっていれば、 必ずしも使える範囲のド真ん中じゃなくても大丈夫ですが、 最大限に活用するならば、波形の中心が(コレクタ電圧の)電位のド真ん中に来るようにすればいいですね。 このバイアスをかけるには、抵抗器を使ってトランジスタのベース入力の前の電位を決めるのですが それには3つの方法がありますので、また自由に選びます。 【固定バイアス】 一番簡単で増幅度も一番高いのですが、hFEのばらつきがそのまま反映されてしまうので その都度hFEを測定して抵抗値を計算しなければならない。 (図1-7) 【自己バイアス】 負帰還がかかる為、多少のhFEのばらつきを抑えることが出来ます。 動作が安定する分、固定バイアスに比べて増幅度は多少下がります。 (図1-8) 【電流帰還バイアス】 自己バイアスよりもさらに安定します。これも固定バイアスに比べて増幅度は多少下がります。 動作が安定する分、ある程度(6V以上)の電圧と電流が必要です。 一番安定してるだけあって、一般的によく使われています。 (図1-9) えーと、実はかなり以前に私は既にゲルマニウム・ラジオを増幅してスピーカーで鳴らしてまして それは今でも使ってますが、その時は「自己バイアス」でやってました。 今回は実験用に動作が一番安定する「電流帰還バイアス」でやろうと思います。 一般的によく使われてるし、性能も良さそうだし。 さて、これで「エミッタ共通回路」の「電流帰還バイアス」というところまで決まりました。 次は電源電圧ですね。何Vの電源を使うかっていうことです。 例えば、 ・「ECB No.1 特集 トランジスタから始めよう」(CQ出版社) という本ではエミッタ接地回路の固定バイアス、自己バイアス、電流帰還バイアスを解説してますが どれも6Vで解説されてますね。 ・「はじめてのトランジスタ回路設計」(CQ出版社) という本では固定バイアスを12Vで、自己バイアスを5Vで、電流帰還バイアスを12Vで解説してます。 ・「定本 トランジスタ回路の設計」(CQ出版社) という本では固定バイアスと自己バイアスは省略して、電流帰還バイアスから解説してます。 こちらは15Vで解説されてます。 実に様々な電源電圧で解説されてますね。 そう。特に何Vじゃなきゃいけないって決まってるわけじゃないのです。 使うトランジスタのデータ・シートに記載されている最大定格を超えなければ良いのです。 例えば2SC1815の場合の最大定格は、コレクタ-ベース間電圧(Vcbo)が60V、 コレクタ-エミッタ間電圧(Vceo)が50Vあります。 でもこれらはあくまでもトランジスタ自体の話であって、回路全体を考えると話が違ってきます。 例えば、後で出てくることなんですが電源ラインにパスコンを付けたいんですよ。 使いたいのは100μFの電解コンデンサですね。容量の小さな電解コンだと耐圧50Vとか入手性も良いですが 100μFの電解コンって種類によっては耐圧16Vより上のものは入手しづらかったりします。 無いわけじゃないんですけどね、まぁ使う部品の定格電圧も頭に入れて設計するということです。 なので、やっぱり出来れば16V未満、16Vギリギリじゃアレなんで、15Vくらいに抑えたいですよね。 それと、電流帰還バイアスだから6V以上は確保したいです。 つまり、6V〜15V程度が妥当だと思います。 あと、私は製作記事でも紹介している可変電源装置がありますから(えへへ) 色んな電圧で自由に実験できるんですけど、一般の人は乾電池とかアダプターですよね。 アダプターもエフェクター用9Vとかの方が用意しやすいと思います。 用意しやすい電源電圧にすることも重要ですよね。 せっかくだから、どの本にも載ってない9Vでやってみましょうか。 えぇ、一般的なエフェクターと同じ電源電圧ですね。 さぁ、ここからいよいよ計算が必要な設計に入ります。各抵抗値の定数を決めるわけですね。 説明をする際には述べている部分が「どこの抵抗値か」「どこの電流か?」などが分かるように記号を用います。 一般的にはまず「抵抗=R」「コンデンサ=C」「電圧=V」「電流=I」で、 「エミッタ=e」「コレクタ=c」「ベース=b」です。 それらを組み合わせると「コレクタ電圧=Vc」「エミッタ電圧=Ve」「コレクタ-エミッタ間電圧=Vce」といったように 各部の値を全て記号で表せます。 全ての記号は図に描ききれません。 でももうここに載ってなくても分かりますよね? (図1-10) ちなみにエフェクターの回路図などを見慣れてる人は、 電源の記号をなんとなく「Vcc」って覚えて使ってますよね。 それもこれらの説明に使う記号と同じに考えると「コレクタ-コレクタ間電圧」になりますよね。 だけどそれじゃ「コレクタ電圧」じゃないかー。って思うけど、 「トランジスタのコレクタ端子と一番コレクタ側である電源ラインの間には何も無い状態」 つまり「Vcc」ということは「何も邪魔(抵抗)が無い、電源電圧そのもの」 ということで解釈していいと思います。 ちなみに、負電源でエミッタ側に電源電圧がくる場合には「Vee」になります。 では、最初に何をするかというと、エミッタ電流(Ie)を決めます。 いや、実は「どこの値から決めていくか」っていうのは本によって異なるというか 本の著者によって異なるというか、設計の手順自体が本によってばらつきがあるんですよ。 おそらくそういうこと(本によって手順が違うということ)があるから、初心者は分かりにくいんだと思います。 ・・・・・・・・・・↓ ここから余談です ↓・・・・・・・・・・・ 例えば「ECB No.1 特集 トランジスタから始めよう」(CQ出版社)の場合は、 あらかじめRc、Re、Icとバイアス抵抗の片側の値が決めてあって、 分圧する残りのバイアス抵抗の値の求め方から説明してます。 さすがにこれでは、書いてあることが確実に理解できたとしても 設計の仕方としては「ちんぷんかんぷん」でしょう。 でもそれは決してその本が悪いわけではなくて、 「著者の表現(説明)したいこと」が「設計の仕方」じゃなくて「使い方」だからでしょう。 設計が出来なきゃ使えないと言ってしまえばそれまでですが、 それは他の専門書で自分で勉強して下さい。っていうことだと思います。 他には「はじめてのトランジスタ回路設計」(CQ出版社)の場合、 IeとReだけですが、やはりあらかじめ値が決められています。 そして、バイアスの分圧抵抗Rb1とRb2を求めてからコレクタ抵抗Rcを求めてます。 そして「定本 トランジスタ回路の設計」(CQ出版社)の場合、 あらかじめ提示してるのは次のような「設計する回路の仕様」です。 ・電圧利得=5 ・最大出力電圧=5Vp-p ・周波数特性=出たとこ勝負 ・入出力インピーダンス=おまかせ この本は順序よく建設的に説明されてて分かり易いと思います。 ただ、初心者用の基本はかなり省略されてるので(固定バイアスも自己バイアスも載ってません) いきなりこれを読んでも苦しいと思いますし、 結局は「何故そのような仕様を提示したのか?」 「電圧利得=5ってどのくらいの効果なの?音とか大きくなるわけ?」 みたいな疑問が生じます。 ぶっちゃけた話、 エミッタ側に何mAの電流が必要なのかによってエミッタ抵抗値Reが変わるのです。 この電流の値が、抵抗値を決める裏づけになります。 なので、なるべく全ての裏づけ、理由付けが出来るような手順で設計していきます。 その順番というのがエミッタ電流(Ie)からでいいんじゃないかと、思います。 しかしながら、この電流は計算で捻出するものではなくて 設計者が自分で決めるものなのです。 だから「あらかじめ決められている」ことが多いのです。 そうすると、ゼロから設計する場合には計算で捻出する以外に ちゃんとした裏づけをもって「その電流値に決める理由」を導かなければなりません。 このIeに限らず、そういう「値の決め方」をする場合にどこまで説明してあるかが、 分かり易い本なのかどうかの境界かなぁと思います。 そして、現状ではそういうことは何冊かの専門書を読まなければならなくて、 「全てこの1冊に書いてある」という本は無いんですね。 私のここでの説明も、何か説明が足りなくて分かりにくい部分もあるだろうし、 余計な話ばっかり書いて話がなかなか進まないこともあるだろうし(汗 人によって「分からないこと」「知りたいこと」「書きたいこと」が違うんだなと思います。 ・・・・・・・・・・↑ ここまで余談です ↑・・・・・・・・・・・ 一般的なトランジスタの場合、Ie=30mA〜40mAくらいが周波数特性が良くなります。 しかし、だからといって「たかがラジオなどの音声信号ごときの低周波回路」でそんな電流を流しても (侮辱罪だな・・・)電気を無駄に消費するだけです。 例えば乾電池を使うことも想定するなら、電池の消耗具合も考慮したいですよね。 そこで、一般的には小信号の回路だとIeには0.1mA〜数mA程度を流します。 求められる性能や用途や回路によっては10mAとか様々ですけど、ここでは Ie=1mA とします。 計算がし易いからということもありますし、後で出てきますが「コレクタ損失Pc」に関わってきます。 コレクタ損失が大きいとトランジスタの発熱量が多くなるのです。 @・・・ Ie=1mAです。 次に、Vbeが変動することによってコレクタ電流を安定させるという回路の仕組みを生かすため、 Reの電圧降下が最低でも1Vは欲しいです。ただし、あまりここが高いと増幅率に支障が出ます。 この回路の交流的な電圧増幅度(交流利得)は Rc÷Re で求められますので Reの値が大きいと増幅率が下がってしまうんです。 そこでReの電圧降下を2Vに設定しましょうか。つまり、Ve=2V です。 A・・・ Ve=2V です。 はい。@とAにより、オームの法則( V=I×R )が成り立ってReの抵抗値が求められます。 2V=1mA×Re Re=2V÷1mA Re=2kΩ はい。Re=2kΩ です。 ・・・・・・・・・・↓ ここから余談です ↓・・・・・・・・・・・ で、ここは注意が必要です。 ここの説明は「定本 トランジスタ回路の設計」にも出ていますが こういうところで「分かったつもり」になってしまいやすいのではないかなぁと。 Re=2kΩ と決まりましたが、それでVe=2V になるのは電源電圧に対してもReに対しても 適切なベース・バイアスをかけた場合の話なのです。 つまり、Ie=1mA で、Ve=2V だからRe=2kΩ なのではなくて Ie=1mA で、Re=2kΩ の時にVe=2V になるようにします。という意味なのです。 私は本を読んだだけではそれに気づきませんでした。 電源電圧を色々変えてそれぞれに合わせて設計していくうちに分かったことです。 ちなみに後で Ve=2V という設定を変更します。 ・・・・・・・・・・↑ ここまで余談です ↑・・・・・・・・・・・ 先ほど、電圧増幅度(交流利得)は Rc÷Re で求められると言いました。 そして、Re=2kΩ というのが決まってますから、増幅度を自分で決められます。 4÷2なら2倍、10÷2なら5倍、20÷2なら10倍です。 つまり、Rcが4kΩなら2倍、10kΩなら5倍、20kΩなら10倍ということです。 大きいことはいいことだ。出来るだけ大きくしたいです。が・・・ 1.Ie=Ib×Ic である。 2.トランジスタの性質上Vbeが常に0.6VなのでIbには微量の電流しか流れないので無視出来る。 ということから、実質的に Ie=Ic ということになり、Rcの抵抗値でVcが自動的に決まります。 で、回路図の記号を見れば分かりますが Vcc=Vc+Vce+Ve なんですね。 すると、コレクタ損失であるVceが0だとしてもVeとVcを足しても9V以内にしかなれないんです。 すなわち、この9Vの電源電圧ではVeを2Vとした場合、Vcは7V以下にしかなれないんです。(9−2=7) つまり、このままでは電圧増幅度が3.5倍以下のものしか出来ません。 ちなみに ・「定本 トランジスタ回路の設計」(CQ出版) では電源電圧が15Vですから電圧増幅度を難なく5倍にしてます。 ・「はじめてのトランジスタ回路設計」(CQ出版) では電源電圧が12Vで電圧増幅度が2.35倍です。(無理のないようにしたんだろうなぁ) うーん、ここはひとつ、せっかくだから9Vで5倍くらいにしたいよね。(対抗心) そうするとRe(Ve)を下げるしかありません。 場合によってはRc(Vc)もギリギリですから波形がクリップする可能性もあります。 RcはE系列で7kΩに近い下側の6.8kΩにして、Reを1.2kΩにすれば、6.8÷1.2=5.66倍になりますよね。 そのかわり、Reを1.2kΩにするとVeも2Vじゃなくて1.2Vになるので、安定度は若干落ちます。 まぁこの回路の動作が不安定になるほどではないでしょう。 つまり、 Ve=2V という設定を Ve=1.2V という設定に変更します。 計算上はこれでいいので仮決定にしますが、あまり余裕がないので ここらへんは後でPspiceという回路シミュレーターを使って波形を確認します。 場合によっては微調整します。 もしシミュレーターは使わないとか、あくまでも計算だけで設計するというのであれば 素直にRc=4kΩ、Re=2kΩ で増幅度を2倍程度に抑えれば良いと思います。 もしくはここで引き返して電源電圧を上げてやり直すかですね。 私はここではシミュレーターを使って、波形を見ながら判断したいと思います。 それには回路図を完成させる必要があるので、残りの定数も決めます。 ちょっとここで、どこまで決まったか見てみましょう。 (図1-11) ふーん・・・ さて、では残りのベース・バイアス部分のRb1とRb2、それと入力と出力のカップリング・コンデンサです。 まずはベース・バイアス部分から。 Vbeが常に0.6Vであると先ほど言いました。 ということは、Rb2の電圧は Ve+0.6V です。Veを1.2VにするならRb2は1.8Vになります。 あとはRb2に流す電流が決まればオームの法則が成り立って抵抗値が求まります。 バイアス(Rb2)に流す電流はベース電流の10倍以上は必要です。 トランジスタのhFEは2SC1815で100〜400くらいでばらつきがあります。 ランク分けして分類してますが、hFEが180であれば Ib×180=Ie ということです。 つまりIe=1mAですから、Ibは 1mA÷180=0.0055555・・・mA(≒0.006mA)になります。 ということは、最低でも0.006mA×10=0.06mA ですので、0.1mAにします。 オームの法則により、Rb2=1.8V÷0.1mA=18kΩ です。 そしてVccの9VをRb1とRb2で分圧してるのでRb2が決まればRb1も決まります。 Rb1の電圧は、9V−1.8V=7.2V Rb1の抵抗は、Rb1=7.2V÷0.1mA=72kΩ です。 実際に入手出来る抵抗器の値としては、E系列の近似値で75kΩですね。 もちろん33kΩと39kΩを直列にして72kΩを作ってもいいんですけど 元々の許容誤差があるからE系列というものがあるわけで、まぁご自由に(笑 というわけで、はい。 Rb1=75kΩ 、Rb2=18kΩ です。 残るのは入力と出力のカップリング・コンデンサです。 これは電気信号の中の直流成分をカットする役割です。 「直流は通さない」というコンデンサの特徴を利用するわけですが それは断線させるわけじゃなくてですね(笑 「電位差が生じない、電位差を失くす。」というような意味であって、 音声信号(交流)は通ります。 入力側(C1)では、入力信号の交流成分だけを取り出してから 直流的な電位はあらためて自分で作ります。それが先ほど設計したベースバイアスです。 出力側(C2)では、トランジスタを上手く使う為にかけたバイアスとか 増幅されて出力された信号の電位を戻して、電位差を失くした状態にします。 (図1-12) なので、余談ですが2つの回路を結合させる場合に 「前の回路の出力コンデンサ」と「後の回路の入力コンデンサ」は 「直流をカットして電位差を失くし、交流成分だけを通す」という役割が同じなので どちらか片方を取り払って1つにまとめることができます。 このカップリング・コンデンサの容量は自由に選んで構いません。 ただ、容量によって通す周波数が違うので音質に関わってきます。 容量が大きいほど低音を通します。 用途と好みによって決めていいと思います。 エフェクターだと0.01μF〜4.7μFくらいのものをよく見かけますね。 で、ゲルマニウム・ラジオのような微弱な電流は 入力(C1)に容量の大きな電解コンデンサを持ってくると、コンデンサに電気が溜まるのに時間がかかります。 私の経験だと0.1μF以下ならすぐに音が出ますが、 ・1μFだと音が出るまでに2〜3秒 ・4.7μFで9秒くらい ・10μFで20秒くらい ・47μFだと40秒くらい ・100μFだともう音が出るまで待ってられない このくらい、音が出るまでに時間がかかります。 (もちろんこれは今回の場合です。何を入力するかによって変ります。) 出力側(C2)は増幅されてるので容量が大きくても大丈夫です。 ちなみに、 「定本 トランジスタ回路の設計」(CQ出版)では入力側も出力側も10μFになっていて 「はじめてのトランジスタ回路設計」(CQ出版)では入力側が2.2μF、出力側が1.5μFになってますが、 私は入力側を0.1μF、出力側を10μFにしました。 ここは実際の音を聞いてからカット・アンド・トライで好みの値を探すのでいいと思います。 あと、電源ラインに100μFのパスコンを追加します。 GNDには微量たりとも電圧をかけたくないからです。 完全な0Vじゃないと安定しませんので、直流を通さないようにするのです。 また、無線機などの高周波回路であれば0.01μF〜0.1μFのセラミック・コンデンサを 基板上の一定の距離ごとに、能動部品のそばに追加します。積層セラミックが良いですね。 同じVcc-GND間でも10cm四方の大きさの基板に十数個も入れることもあります。 が、今回のこれは低周波回路なので、今回は私は付けません。 これで設計が終わりました。 (図1-13) トランジスタは2SC1815にしてありますが、 電源電圧が9Vの回路で最大定格を超えてしまうことは無いので 一般的な汎用NPNトランジスタであれば何でも大丈夫です。 ただし、ゲルマニウム・トランジスタだとhFEがかなり小さいので、 種類(型番)によっては動作しないかもしれません。 あとはコレクタ損失(Pc)による発熱は、 回路の安定度だけでなく危険性の問題もありますので一応計算します。 Vcc=9V、Vc=6.8V、Ve=1.2V ですからコレクタ-エミッタ間電圧は9V−6.8V−1.2V=1V よって、コレクタ損失(Pc)は1V×1mAで1mW です。 2SC1815のコレクタ損失(Pc)の最大定格はデータシートによると400mWですから、 当然ですが、全く問題ありません。 では、これをPSpiceでシミュレーションして波形を確認します。 (図1-14) まず、このシミュレーション用の回路図の出力部分(R5、R6、R7)には 私の個人的な都合により「可変抵抗器と同等の回路」と「架空の負荷」を付けてます。 R5とR6のバランスを変更すればボリュームで音量調節した場合の波形を見れます。 ここでは100kΩの可変抵抗器をフル・ボリュームの状態で固定してまして、 回路の動作には全く影響しないので無視して下さい。 あと、一番左の入力部分にはゲルマニウム・ラジオに見立てた信号を入れてます。 ゲルマニウム・ダイオードなら信号を通すけどシリコン・ダイオードじゃダメということで その順電圧から「0.15V以上はあるけど0.6V未満」ということで0.25Vの信号を入れてます。 では、波形を見てみましょう。 (図1-15) クリップすることなく、綺麗な波形でした。ははは。 気づいた方もいらっしゃるかもしれませんが、シミュレーション用の回路図に表示されてる電圧で ベース入力の電圧(ベース・バイアス)が1.668Vになってますよね。 ここは18Vにするはずの計算だったのですが、Rb1を72kΩからE系列の75kΩに変更した為に 分圧の比率で上側が3kΩ大きくなった分だけバイアス電位が下がったんですね。 それに連動してReも1.2Vの予定が1.053Vになってます。 E系列を抜きにしても元々トランジスタの内部抵抗によるインピーダンスの関係もあって多少はズレますが まぁそういう色々な部分も含めてみても、まずは波形が綺麗に出たから大丈夫だといえます。 ・緑が入力信号です。 音が小さいから波も小さく、バイアスをかける前なので0Vを中心とした波です。 ・赤がバイアスをかけた状態です。 増幅前なので波の大きさはまだ変らず、電位だけが上がってます。 ・紫が増幅された信号です。 音が大きくなったので波も大きくなっています。 ・黄色が出力信号です。 増幅されて大きくなった波の形のまま、電位だけが入力の緑と同じ0Vに下がってます。 波形も綺麗だし、ちゃんと増幅されてるので回路定数はこれで決定です。 試しに、わざと波形をクリップさせて崩してみましょう。 「増幅度を上げたいからRcの抵抗値をもっと上げる」とします。 「定本 トランジスタ回路の設計」によれば、 Rcの値が大きすぎるとRcの電圧降下が大きくなってコレクタ電位が下がってしまい、 エミッタ電位にひっかかって出力波形の下側がクリップしてしまうとのことです。 実際に試してみましょう。 具体的にはRcを6.8kΩから7.8kΩに上げてみます。電源電圧9Vでの上限です。(7.8+1.2=9V) (図1-16) 計算上は7.8÷1.2=6.5 で、増幅度6.5倍です。 (図1-17) なるほど。教科書通り、出力波形(紫)の下側がクリップしました。 クリップした波形のまま、カップリング・コンデンサで黄色の出力電位になってます。 「Rcの電圧降下が大きくなってコレクタ電位が下がってしまい」というのは、 具体的にシミュレート回路図の表示でいうと、3.070Vが2.203Vに下がってる部分のことです。 はい。確かに教科書の通りになりました。 だけど、 じゃぁ、増幅度6.5倍は無理なのでしょうか? 波形をクリップさせずに6.5倍に増幅させることはできないのでしょうか? できます。 Reを下げればいいのです。 Reを1.2kΩから0.8kΩ(800Ω)にまで下げて、Rcを5.2kにすれば 5.2÷0.8=6.5 で、増幅度6.5倍です。 ただし、Reを変更したのでベース・バイアスも変更しなければなりません。 0.8+Vbeの電圧降下分0.6=1.4V Rb2=1.4V÷0.1mA=14kΩ Rb1=(9−1.4V)÷0.1mA=76kΩ になります。 (「ベース・バイアスも変更しなければなりません。」とか言っておいてアレですが、 計算上Rb1は72kΩから76kΩに変更になったわけなんですけれども、 考えてみたら、E系列から実際に使う抵抗器を選択する分にはどちらも75kΩなんですね・・・) (図1-18) はい、では波形を見てみましょう。 (図1-19) 下側のクリップがなくなりました。 先ほどの波形クリップの原因だった「下がってしまったコレクタ電位」が上がってますよね。 クリップさせずに増幅度6.5倍にできました。 まぁここでは「どこをどういう値にするとどうなるのか。」が分かればいいので この6.5倍のやつはReが小さ過ぎて安定度が良くなさそうだし 一応、実用的に増幅度は最初に設計した5.66倍にします。 はい。設計は出来ましたが、これだけでは目的を果たしていません。 設計やシミュレートも大事ですが 今から実際に回路を組んで、ゲルマニウム・ラジオを鳴らします。 そして、トランジスタの恐るべし威力を体感するのです! このくらいの単純な回路なら ユニバーサル基板でも空中配線でもラグ板でもいいです。 回路図から実体配線図にするのが分からないとか苦手な人は ただ単に部品の「記号」を「絵」に置き換えるだけでもいいです。 まぁこんな感じで組んでみて下さい。 (図1-20) ・・・って、あーーー。 変なものが付いてます。 (図1-21) 1.2kΩのエミッタ抵抗の右側に100μの電解コンが付いてます。 すいません。説明が漏れてました。 実はこれは回路の定数を変更することなく、 バイアスも崩さずに増幅度を上げる裏技的なものです。 えーと、例えば抵抗器が2本あったとします。 その2本を直列にすると抵抗が増えて、並列にすると抵抗が減りますよね。 原理的にはそれと同じです。 コンデンサを並列につないでGNDにバイパスしちゃうんです。(エミッタ・バイパス・コンデンサと呼びます) そうするとコンデンサは交流だけを通すので、交流的なインピーダンス(抵抗)だけが下がって Ve抵抗値を変更することなく増幅度が上がるのです。 もちろんVeの抵抗値が変らないのでバイアスも変更しなくていいんです。 欲を言うと、「抵抗器+エミッタ・バイパス・コンデンサ」のセットで並列にすると その抵抗値によって増幅度の調節もできるのですが、コンデンサだけが一番増幅度が高いし簡単です。 増幅度が足りないと思ったら追加もしくは取り外しができるようにしておくといいかもです。 多分あとで役に立ちます(えへへ) まぁ抵抗器なんかも全て取り外しができるようにしておいてもいいですよね。 ということで、「決定バージョン」の回路図です。 (図1-22) へーぃ、基板ができました。 私は電源ラインのパスコン以外は全てソケットにしました。 これなら12V用にも15V用にも自由自在に変更できます。 実験用の回路なので、手元に在庫が無い抵抗値は合成抵抗で作ります。 部品は回路図と同じ配置にすると、定数変更の時に楽です。 (図1-23) 裏側の配線もチョー簡単。 (図1-24) 基板が出来たらゲルマニウム・ラジオにつないでみてください。 (図1-25) よし! スイッチ!オオォォーーーーン!! どうでしょうか。 しーーーーっ。 何も聞こえませんか? Reに100μFのエミッタ・バイパス・コンデンサを付けてください。 スピーカーに耳を近づけて下さい。 蚊の鳴くような音がしませんか? そうです。 クリスタル・イヤホンじゃなければ聞けなかったものが、 蚊の鳴くような音ですが、スピーカーから聞こえて来るのです!! はい。 期待外れだったらごめんなさい。 トランジスタ1石だと・・・この程度なんです。 要するにヘッドホン用のアンプですね。 スピーカーじゃなくてヘッドホンにしてみて下さい。 クリスタル・イヤホンじゃなくて、ウォークマン用のとかで聞けますので。 まぁ「トランジスタ1石ではヘッドホン用くらいの音量にしか増幅できない」ということで 「なんだよ、こんなにショボいのか。」と思うかもしれませんが 逆に言うと、クリスタル・イヤホンじゃなければ聞こえなかった音が、 ウォークマン用などのイヤホンやヘッドホンでもよく聞こえるようになった。 ということです。 望遠鏡で天体観測をしたことってありますでしょうか? それと似てるような気がします。 初めて木星や土星を観た時には、図鑑の写真とはかなり違ってショボいものだったので ガッカリしたのを覚えています。 でも一度ガッカリしたことで現実が見えるようになって、望遠鏡の凄さが分かってくるんです。 今回の1石トランジスタの設計を「楽しい」と思うか「期待外れ」と思うかはそれぞれですが 私はあまりの楽しさにみんなにも味わってもらいたいと思ってこの記事を書くことにしましたし、 これから2石トランジスタ回路にして今度はスピーカーが実用的に鳴るわけですけれども、 それは今回の1石増幅回路の後に別の回路を追加するので、 結局は今回の1石での設計が理解できてないとアレですよね。 おそらくこういった回路の設計を理解するのに一番早くて確実な方法は 今回の設計や本の載ってる設計の他にも自分で色々なパターンで設計してみることだと思います。 電源電圧や増幅度を変えたり、エミッタ電流を1mAから2mAにしてみたりとか。 また、トランジスタのhFEの個体差がどのように影響してくるかとか、 同じ電圧増幅度でも電源電圧が違うと実際の音の大きさにどんな影響が出るかなど 今回の回路とゲルマニウム・ラジオで実験してみたり、色々と遊べると思います。 では次回、2石トランジスタの回路設計です。 2009.2.2 【参考文献】 ・「定本 トランジスタ回路の設計」(CQ出版) ・「はじめてのトランジスタ回路設計」(CQ出版) ・「ECB No.1 特集 トランジスタから始めよう」(CQ出版社) |
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