ギターダー
topページ
_______________
No.9「ギター・アンプの製作」


 さて、今回はギター・アンプを製作してみたいと思います。

今回ギター・アンプを製作する目的は、

・トランジスタ回路の設計をもっと学びたい。
・設計を楽しみたい。
・アンプの設計をエフェクターに生かしたい。

という感じですね。

 ですので、人気のチューブ・アンプではなくてトランジスタ・アンプにします。
もちろん設計を楽しむのですから、あえてオールディスクリートにして、性能や音も追求します。
で、今回は初めてなので小型にします。

ゆくゆくは、OPアンプを使ったものや、出力の大きいもの、
チューブ・アンプなども製作したいと思ってます。

 ただ、根底にあるのは過去の日記に何度も書いているように
「Hughes&Kettnerのトランジスタ・アンプに衝撃を受けたこと」でしょうね。
確実に「もうチューブはいらない時代なんだ」と思いましたから。
でも最近はやっぱりHughes&Kettnerもチューブばっかりになってきて
トランジスタのは小型以外はベース・アンプだけになっちゃったかもしれないです。
でもそこには「DYNACLIP」というHughes&Kettner独自のテクノロジーが使われていて
なんでも「チューブに匹敵するパワー感をトランジスタ回路から生み出す」らしいです。

 やっぱり「もうチューブはいらない時代なんだ」と、
「あのトランジスタ・アンプはただ者ではなかったんだ」と、思わざるを得ません。

「DYNACLIP」ってまさか「ダイオードクリップを2本と1本で非対象にしただけのアレ」
じゃないとは思いますし、調べて解析して真似しようとも思いません。
やるなら自分でチューブやDYNACLIPに匹敵するテクノロジーを開発したいですね。

今回のアンプはそういう野望へ向けての第一歩です。

いえ、小さな一歩ですが、人類にとっては大きな躍進です!


※注1:チューブアンプが良くないという事ではありません。
※注2:トランジスタの方が良いとかっていう事ではありません。
※注3:今回製作するアンプがチューブやDYNACLIPに匹敵するわけではありません。



ギター・アンプの設計ということで、どうしても譲れない事があります。

1.「VOLUME」と「MASTER VOLUME」が付いていて、アンプで歪みを作れること。
2.「TREBLE」「MIDDLE」「BASS」の3トーン回路が付いてること。

いわゆる「2ボリューム、3トーン」ってやつですね。
私の中では、これじゃないと「使えるアンプ」じゃないんです。

 でもトーン回路で凄く悩みましてね・・・
バラックで組んで実際の音を比較してみたんですけどもね、
フェンダーやマーシャルなどのヴィンテージなアンプで使われてるような
パッシブ・トーン回路を数通り試してみたのですが、全部が気に入りませんでした。
TREBLEのつまみの位置によってMIDDLEやBASSの効果が極端に薄れてしまったり、
効果や音量のバランスも悪くて不安定なものになってしまうものばっかりだったのです。
アンプ全体の回路の中でしか効果を発揮しないような仕組みになっているのでしょうか?
ただ、やっぱり昔のアンプのトーンの効き方は現代のアンプとは違いますよね。
いずれにしても、どんなに頑張ってみても、納得できる3トーンにする為には
OPアンプ回路4個分のイコライザー回路が必要になりました。

 もし、エフェクターなどにあるような「1トーン」(TONEというつまみが1個あるだけ)であれば
DS-1やBig Muffのようなパッシブでもかなり強烈なトーン回路が出来るんですけど、
「3トーン」としてそれぞれが独立したものは、どうしてもパッシブだと不満が解消されません。
音を優先させる為に「OPアンプ回路4個分のイコライザー回路」を採用することにして、
それを私の今回の設計のこだわりで、全てディスクリートでやることにしました。

この「アンプのトーン・コントロール」に関しては、トーンを付ける以上は
「ギターの原音を損なわないようなものにしたい」とは思いません。
どんな環境やジャンルや好みにも対応できるような「極端なくらいに効くトーン」が良いです。
しかも、ギターの音としてのイコライジングが出来る可変域じゃなきゃ存在価値が無いのです。

 最終的に決定した回路は、
「電源部」+「プリ・ドライブ・アンプ」+「プリ・イコライザー・アンプ」+「パワー・アンプ」
という構成になりました。

もちろんこの回路の一部、もしくは大多数をOPアンプにして再設計することも可能です。
市販の「トランジスタ・アンプ」達も、随所にOPアンプを使ってます。
「トランジスタ・アンプ」というのは、「パワー・アンプ部がトランジスタ」ということなので、
「プリ・アンプ部」にOPアンプを使っててもそれは普通なのです。
(むしろ、そっちの方が普通か・・・)

というわけで、基板が1枚じゃ収まりきれず、2枚になりました。

(基板1)

(基板2)



 部品を乗せてこんな感じです。トランジスタが全部で35個です。
やろうと思えばもっと増やせます!!
(増やさんでえぇわぃ!!)

(基板1)

(基板2)



 今回はアダプターは使いません。電源はコンセントから取ります。
よって、トランスを使います。ヒューズを付けなきゃいけませんね。



さらに、一般的に使われているブリッジダイオードという便利な部品も使いません。
「ダイオード4本によるブリッジ型全波整流回路」にします。
それを三端子レギュレーターで安定化させます。

実は三端子レギュレーター自体もトランジスタ数個で出来るんですけど
まだ実験するに至ってないので、それはそれでまた今度やろうと思います。

トランスとこの基板でアダプターと同じ働きになります。





製作し始めてからずっとHP用の写真を撮るのを忘れてまして、
ここまで配線しちゃってから、上記の写真を撮りました・・・
焦りました・・・



あとね、この出力部分のトランジスタによって音が変わりますし
電流を測定したりもしたいので、
ソケットで差し替えられるようにしておきました。



ノーマルは2SC1815にしてあります。
ランクはGRでもBLでも差は感じません。

パワートランジスタの2SD669Aとか2SD794とかにすると
ず太くてかっこいい音になります。が、ノイズが出ます。「ビィー」って。
2SC4935も2SC3422もノイズが出ます。やっぱり「ビィーー」です。
電源のハムノイズみたいな感じですねぇ。



 パワートランジスタじゃダメなのか?と思って色々試してたら、
パワートランジスタでも2SC3423ならノイズが出ません。
音は2SC1815に比べると、中音域と低音域がやや強くなる感じですが
サスティーンも若干だけ失われる感じです。
枯れた感じという訳ではないですね。荒い音です。
歪ませてヘヴィなのなら2SC1815が良いですね。


 でも、トランジスタなら何でも試して良いという訳ではありません。
最大定格を超えるトランジスタはダメです。

それでですね、手当たり次第に差し替えてみちゃってましたが、
今のところ唯一ノイズの出ない2SC3423は、コレクタ電流の定格が50mAなので
この回路には使えないのです。



 さて、何故パワートランジスタを試したのかというと、
コレクタ損失による発熱が大きいので、許容コレクタ損失が大きいものがいいかと。
これは基板を製作する前に、一度設計してからブレッドボードで仮組みして
音を出しながら色々と調整してあるんですけど、
この差し替えられる部分の出力トランジスタのベース電流も色々いじってたんですよ。
最初の設計通りでは思っていたよりも音の大きさが足りなかったので
「もっと大きい音を出してやろう。」と思いまして、えぇ。

で、基板を製作する段階になっても定数が決まらないままだったので
ベース入力の抵抗値もソケットで変更可能にしてあるんです。



(ちなみに写真に写っている基板右上の2本のアンテナのようなすずメッキ線は、
基板完成時の音出しテスト用のスピーカー接続用のすずメッキ線です。)

 この抵抗器の値で、ベースに流す電流が決まります。
ここのトランジスタのベースに流す電流が「肝」でして、
それによって出る音の大きさや音の割れ具合が変化するんです。
そのベース電流がhFE倍されてコレクタ電流になるのですが、
ここはベースバイアス電圧ということで、安定した電圧が望ましいので
ツェナー・ダイオードや、ダイオードの電圧降下を利用したりするんです。

よくあるアイデアでは、LEDを使ったりします。そう。あの光るLEDです。
一般的なLEDの電圧降下が1.6Vなのを利用するんです。
シリコン・ダイオードなら電圧降下が0.6Vですから3本直列にして1.8Vとかですね。

で、実はここ、最初はLEDにしてたんですよ。
でももっと大きな音を出したいと思ったので、抵抗器に変えたんです。
あとはどんな値にすればいいのかを計算しながら音も詰めていきます。



 この抵抗値はベース入力のバイアス電圧で、それがコレクタ電流を決めて、
結局この電流がコレクタ損失を決定することにもなります。
ここは、回路シミュレーターを元にした計算と、基板にテスターを当てて実測するのと、
実際の音などを総合して決めていきました。

入力の抵抗を100Ωにすると、出力される音もかなり大きくなって
歪ませない時のクリアな音が割れないで綺麗に出るようになります。

でも100Ωだとコレクタ電流が200mAくらいになるんですよ。
これじゃ2SC1815のコレクタ電流の最大定格150mAを超えてしまいます。

220Ωにすれば計算上は最大でも135.4mAですから、なんとかOKです。
その時のコレクタ電圧が9V、エミッタ電圧が6VですからC-E間電圧が3Vです。
その場合のコレクタ損失は406.2mWなのですが、
これは2SC1815の許容コレクタ損失が400mWなのでもう限界です。

しかし、実際の音は220Ωやそれより大きいと、
歪ませないクリアな音質の時に若干音が割れるんです。
そこで、許容コレクタ損失が大きいパワートランジスタを試したのですが
2SD669Aや2SD794は「ビィー」ってノイズが出るし、
先ほど言った、ノイズが出ない2SC3423はコレクタ電流の最大定格が50mAしかないです。

そこで、全ての妥協点ということで、とりあえずベース入力を200Ωで2SC1815にしました。
計算上コレクタ電流は最大で143.4mAですが、実測だと120mA程度でした。
それだとコレクタ損失は360mWになって許容損失の400mW以内におさまります。
でも計算上は最大で430mWになることもあるので、完璧じゃないですよね。
フルボリュームで長時間とかじゃなければ大丈夫でしょう。か?ね?

でもね、そう。これだとギリギリの設計なんです

トランジスタはhFEのバラつきが大きいものですので、
実際にはコレクタ電流、コレクタ損失にはかなりの余裕を持たせないと危険です。
「トランジスタは定格の半分以下で使え」とかあるし。



そこで、200Ωとシリコン・ダイオードを直列に入れてみることにしました。
そしたらですね、音は大きいままコレクタ電流が下がりました。
シミュレーターでの計算上143.4mAあったコレクタ電流が114.7mAに下がりました。
この時のエミッタ電位が5.783Vですから、計算上、コレクタ損失は最大でも368mWです。
これでいきますかね。

市販する量産品というわけじゃないので、 計算上、最大定格を超えなければいいでしょう。

逆に言うと、ここまで最大限に出力を引き出す設計が出来るのも「自作の醍醐味」です。

まさしく「設計が楽しい」と思えるところですね。




では、とりあえずここらで箱を作ります。

最初はスピーカー一体型のコンボタイプにしようと思ってたんですけど
色々なスピーカーでの音の違いも楽しめるようにアンプヘッド型にしようかと。
今後、スピーカーキャビネットやもっと大きな出力のコンボも作るかもしれないけど。

まずはこんな形にしてみてですね・・・



底に鉄板を敷いて、基板を固定する為のスペーサーを立てます。
マジックで線を引いたままなのは後で消します。



鉄板の裏にはネジの山が出っ張るので



ネジ山が当たる部分をドリルで掘っておきます。



掘ったとこにネジ山がカパっとはまるようにして乗せます。
あと、この鉄板を底にネジ留めしなくちゃですね。



パネルは、溝を掘ってスライドさせてはめ込むことにしました。





塗装して組み込んで、こんな感じで完成です。
天板が付いてないのはそういうデザインにしたからです。
手抜きじゃないですよ。え?いえ、手抜きじゃないんです。

コントロールは左から
VOLUME 、 MASTER VOLUME 、 TREBLE 、 MIDDLE 、 BASS です。

一般的な8Ωのスピーカー・キャビネットに接続して使います。
もちろんマーシャルやメサブギーなどのスピーカー・キャビネットで使えます。





なんでこういうのを製作すると最初は家具調にしたがるんですかねぇ?
心理的なものなのか、木の肌感を新鮮に感じてそれを生かそうとするのか、
いずれにせよ、一度は家具調で製作してみたくなるものなんだと思います。

で、「時代遅れ」な感じになって微妙な気分になる。と。(笑

そして・・・
「次に製作する時にはもっと現代的なのにしよう」と誓うのです。

でもこういうラジオを作りたい・・・



 さて、これはトランスを組み込んだ時点で、「ビー」というハムノイズが出るようになりました。
一部のパワートランジスタで出た、あの「ビー」とは違いますね。
それはもう回路的なものではなく、完全にトランスの配置や配線の取り回しによるものです。
他に要因はありえません。

案の定、トランスの向きを90度横にするか、基板から少し遠ざけるかで解決するのを確認しました。
確認しましたが、トランスの向きを90度横にする余裕がもうありません。
気が向いたら箱を作り直します。
自分では「ちゃんとトランスを入力から一番遠い位置に設置した」つもりだったのですが、
それだけではだめだったんですね。「磁力線の向き」が関係するようです。
今度から気をつけます。どうもありがとうございました。

コンパクトエフェクターとは違うので、色々と学ぶことは多いです。
もっと大きなアンプになると、GNDのループももっと関わってくるでしょう。

 いずれにしても今回は
『ギターアンプとしての音色を自分の狙っていた通り、思いのままに出せる設計が出来た。』
という目標を完全に達成したので、これはこれで成功です。よく出来ました。
もう早く次の10Wか20Wあたりのアンプにいきたいです。



 で、このアンプは1W程度の出力なんですが、近所迷惑なほどの音量が出ますので
普段の練習に使うには、かなりボリュームを絞ることになりますね。
音量も音質も、よくある1W程度のミニアンプとは比べ物にならないほど良いです。
「TREBLE」「MIDDLE」「BASS」の3トーンが良く出来ているからということもありますかね。
それぞれが独立して「しっかりと」効く。かかりが良いです。
これこそが、エレキギターという楽器に最適な音域のトーン。
ギターアンプにはギターの音域にあったトーンが必要なんです。
オーディオのトーンとは違うんですよね。

トーンの定数を決めるのには、ものすごく労力を費やしましたからねぇ。
何日もかけて、妥協せずに徹底的に追い詰めました。
このアンプの一番肝心な音の個性を決める部分ですからね。

「VOLUME」と「MASTER VOLUME」の2ボリュームタイプですから、アンプで歪ませられます。
もちろん「VOLUME」を絞れば完全にクリーンな音になります。
当たり前のことですけど、とても重要なことです。

まさに「自由自在な音作りが可能」ですね、これは。
極端なほどの硬い音から丸い音、柔らかい音、重低音も極端なドンシャリサウンドも、
「大型アンプの箱鳴り」も再現出来ます。

アンプの「3トーン」でしっかりと音を決められれば、
エフェクターにはトーンが付いてなくても大丈夫派です。私は。

今度もっと大きな出力のアンプを製作する時も、このトーンでいくかな。
わかんないけど。(笑

それにしてもこのアンプ、笑えるくらいに自画自賛ですね!(笑


正直申しますと、かなり楽しいです(笑


許して(笑

2009.8.1



(2009.9.23 追記)

改良版です。
このアンプを持って友達の家に遊びに行くことになり、
ちょうど良い機会なので「ビー」というノイズが出ないように
トランスの位置を少し後方へ移動させました。

ちょっとしたレイアウトでノイズが消えるんですね。





2009.9.23

_____________



Copyright (C) 2004 GUITARDER All Rights Reserved.
inserted by FC2 system