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No.11「入力インピーダンスの測定」
今回は、様々なエフェクターの入力インピーダンスを測定してみたいと思います。 市販のエフェクターでも入力インピーダンスが公表されていないものもありますし また、入力インピーダンスに限らず、電子回路について色々なことを実際に実験して確認するということは 理論と現象が合っていることを再確認したり、新たな発見があったりと、理解を深めるのにとても役立ちます。 さて、入力インピーダンス・・・すなわち “入力側の、交流的にみた抵抗値” の測定方法ですが、 まず、電圧というのは複数の直列した抵抗値に比例して分圧されますので、 入力する電圧と抵抗器の値が決まっていて抵抗器にかかる電圧が分かれば、エフェクター内部にかかる電圧が求められます。 エフェクター内部にかかる電圧が分かれば、エフェクターの入力インピーダンスが求められます。 そこで、1V程度、500Hz〜1kHzの正弦波を抵抗器を介してエフェクターに入力し、抵抗器にかかる電圧をオシロスコープで測定します。 ただし、入力信号を何Vにするかや抵抗器を何kΩにするかで測定の精度が変わってきますので、最初に調整が必要です。 そこで今回は、調整冶具としてこのようなコンデンサ1つを通すだけの回路を用意しました。 これは「コンデンサ1つを通すだけのエフェクター」であるともいえます。 エフェクターといってもただブレッド・ボードで組むだけでも構いません。 これなら余計な回路が無いので、抵抗値を1MΩにすれば入力インピーダンスは1MΩということで基準になります。 大手メーカーの一般的なエフェクターは、古いものは470kΩ、最近のものは1MΩが主流ですので 470kΩと1MΩの基準回路をもとに色々と試した結果、入力電圧1Vで抵抗器を56kΩにした時が一番精度が高くなりました。 実際の測定の様子を見てみましょう。 まず、これが入力する 500Hz / 1V の信号です。DIV=0.2Vに設定しているので 0.2V × 5 = 1V です。 では470kΩの基準回路の入力インピーダンスを見てみましょう。 これだけ見ると上の波形と同じ様に見えてしまいますが、これはDIV=20mVですので 写真だと見づらいですけど、5マスと目盛り2つで108mV(0.108V)ってとこでしょうか。 基準回路の470kΩの抵抗器が実測460kΩ。500Hz / 1V を入力して、介する56kΩの抵抗器は実測で55.5kΩです。 抵抗器の電圧が0.108Vですから、「0.108V : 1V-0.108V = 55.5kΩ : 入力インピーダンス」つまり、 55.5kΩ ÷ 0.108V × (1V-0.108V) = 458kΩ ですね。 460kΩに対して458kΩですから、入力インピーダンスを測定する精度としては充分だと思います。 続いて1MΩの基準回路。 DIV=20mVのままだと幅が狭くて読み取りが大雑把になるので DIV=10mVに設定します。 弱い電圧の小さな信号を引き伸ばして観測しているので470kΩの時よりも線がぼやけてますが 5マスと目盛り2つで52mV(0.052V)ってとこでしょうか。 基準回路の抵抗器が実測1MΩ。500Hz / 1V を入力して、介する抵抗器は先ほどと同様、実測で55.5kΩです。 抵抗器の電圧が0.052Vですから、「0.052V : 1V-0.052V = 55.5kΩ : 入力インピーダンス」つまり、 55.5kΩ ÷ 0.052V × (1V-0.052V) = 1.01MΩ ですね。 端数の0.01MΩ(10kΩ)は無視できるレベルですから、これはもうズバリ1MΩということです。 470kΩの基準回路と1MΩの基準回路の両方でこの精度であれば、これによる測定結果を信頼しても良いでしょう。 これで、エフェクターの入力インピーダンスを測定する準備は完了です。 さぁいよいよエフェクターの入力インピーダンスを測定するわけですが まずは、取説やカタログに入力インピーダンスが載っているエフェクターで測定してみましょう。 短く切ったシールドを加工してアタッチメントとして使うと便利です。 <留意事項> ・各つまみの位置などは測定に影響しません。 ・電子スイッチのエフェクターはエフェクトのON/OFFは測定に影響しません。 ・トゥルー・バイパスのエフェクターはエフェクトをONにしないと測定出来ません。 ・エフェクトがONでもOFFでも、アダプターを接続しておかないと波形が崩れたりします。 では、取説に入力インピーダンスが470kΩであると記載されているBOSSのDS-1から測定してみます。 ちなみにこれはTAIWAN製です。 これはDIV=20mVなので、114mVってとこでしょうか。 55.5kΩ ÷ 0.114V × (1V-0.114V) = 431kΩ ですね。 DS-1の入力インピーダンスがカタログ値で470kΩなのに対して、実測で431kΩという結果です。 これが測定の誤差だとしても、製品の仕様だとしても、まぁ誤差は8%程度なので許容範囲だと思います。 念の為、アダプターがACA-100タイプのJAPAN製も見てみましょう。 114mVで同じですね。TAIWAN製もJAPAN製も実測431kΩです。 じゃぁSD-1はどうでしょうか。4558艶あり搭載のJAPAN製。 これもカタログ値470kΩです。 DIV=20mVで114mVですね。 DS-1と同じ、431kΩです。 今度は入力インピーダンスがカタログ値で1MΩのエフェクターを測定してみましょう。 昔よく使っていたBOSSのピッチ・シフター機能が付いたデジタル・ディレイ、PS-2です。 これはDIV=10mVになりまして、5マスだから50mVですかねー。 55.5kΩ ÷ 0.05V × (1V-0.05V) = 1MΩ です。 楽しいですねぇ笑 もうひとつカタログ値で1MΩのやつを測定しておきましょうか。ハーフラックのグライコRGE-10です。 これも50mVでPS-2とまったく同じですね。 55.5kΩ ÷ 0.05V × (1V-0.05V) = 1MΩ です。 BOSSばっかりでもアレなのでMaxonも測定してみましょう。 真空管搭載のROD880です。取説に入力インピーダンス500kΩと記載されてます。 470kΩでも1MΩでもなく500kΩだったり、INPUTジャックが左側だったり、 なんだか「BOSSとは違うのだよ、BOSSとは。」みたいな主張が見受けられます。 DIV=20mVで、4マスと目盛り3つと4つの間ですから94mVですね。 55.5kΩ ÷ 0.094V × (1V-0.094V) = 535kΩ です。 念の為、Maxonの “使えるコーラス” CS-550も測定しておきましょう。これもカタログ値で500kΩです。 ROD880と同じく、実測535kΩですね。 カタログ値500kΩに対して7%プラスですが、少しプラス寄りになっている理由は下で説明します。 まぁ470kΩや1MΩとは別だということも判断できるし、入力インピーダンスの測定の精度としては許容範囲ですね。 はい、ここでちょっと今まで測定したものについて整理します。 一般的に、入力部分でBIASやGNDに落としている抵抗器がその機器の入力インピーダンスに大きな影響を与えますが、 この抵抗器の値を「R in」(アール・イン)として、各入力インピーダンスの値との比較を表にしてみました。
入力インピーダンスの比較(1)
Maxonの2台の「R in」の値が510kΩなのは、500kΩのE系列による近似値が510kΩだからですね。 実測値が500kΩより少しプラス寄りになってるのも納得できますね。 どの機種も「カタログ公表値」と「実測値」の誤差が8%程度以内で、ほぼ揃っていることが分かります。 このことを確認したうえで次に進みます。 さて、今度は入力インピーダンスが公表されていないエフェクターを測定してみたいと思います。 (ここでは、取説やメーカーのHPやカタログなどに入力インピーダンスの記載が無いものを 「メーカー側の公表が無いもの」と判断して取り扱います。) まずはMarshallのThe Gav'norです。 外観の異なる現行の「The Gav'nor Plus」については取説やメーカーのHPに「Input Impedance 1MΩ」と記載されてますが、 このモデルは生産終了品なのでHPにも記載が無く、取説やカタログにも入力インピーダンスの記載がありません。 DIV=20mVで、3マスと目盛り3つですから72mVですね。 55.5kΩ ÷ 0.072V × (1V-0.072V) = 715kΩ です。 写真は韓国製ですが、英国製でも結果は同じでした。 The Gav'norは入力部分の「R in」が2.2MΩなのに実測715kΩです。 それは何故かというと、このようにコンデンサをはさんで1MΩが2.2MΩと並列になっているからです。 以前、私がThe Gav'norを自作した時の記事でも2.2MΩと1MΩの合成抵抗で687.5kΩと計算していますが、 もっと細かくいうと、2.2MΩがGNDに落ちてて1MΩはBIASに落ちていますので 1MΩの方は47kΩ2本で分圧されたうちのGND側の47kΩと直列に繋がって、その合計が2.2MΩと並列ということで 「2.2MΩ」と「1MΩ+47kΩ」の合成抵抗になります。 計算すると709kΩで、それに対して実測値が715kΩなので、 The Gav'norの入力インピーダンスは710kΩ程度。 ということでいいでしょう。 もうひとつ、入力インピーダンスが公表されていないエフェクターを測定してみたいと思います。 一時期、私が愛用していて、ギターダーとしての自作記事としては第一号になったsobbatのDB-2です。 これも、取説にもメーカーのHPにも入力インピーダンスの記載がありません。 今までの正弦波とは違いますよね。三角波っぽいです。 例えばエフェクターで加工された出力信号の波形だったらトーンをいじれば様々な」形に波形が変化しますが これはあくまでも入力インピーダンスの測定ですので、どのツマミをどの位置にしてもこの波形は変化しません。 三角波ならトーンをどういじろうが三角波のままです。 これはDIV=20mVです。5マスと目盛り2つで108mVですね。 つまり、これも入力部分の「R in」が1MΩなのに実測458kΩです。 何故「R in」が1MΩなのに入力インピーダンスが1MΩにならないのでしょうか? それは、1MΩと並列に470pFのコンデンサがあるからです。 波形が三角波になっているのもこれの仕業です。 コンデンサって直流は通しませんが、交流は通しますよね。 例えばあれですね、トランジスタのエミッタ接地でこれ以上Reの値を下げられないけどもっと増幅率を上げたいって時に Reと並列にコンデンサを入れて、直流抵抗は下げずに交流抵抗を下げるじゃないですか。 インピーダンスを下げてるわけです。 それです。 よくこの入力部分の「R in」に該当する抵抗器の値が「入力インピーダンスを決定する抵抗器」だと言われてますが、 必ずしもそうであるとは限らないということです。 というわけで、sobbatのDB-2の入力インピーダンスは実測で458kΩです。 私が所有しているエフェクターで入力インピーダンスが公表されていないものというと・・・あとはこれとかですかねぇ。 JENのcry baby SUPERです。 これはもう、ずっと前から入力インピーダンスがいくつなのかを知りたかったものです。 取説にも入力インピーダンスの記載は無いし、入力部分の「R in」に該当する抵抗器も無いです。 JENを含む昔のワウは、入力インピーダンスが「低い、低い」と言われていて、 確かに入力インピーダンスが低いせいでOFF時の音の劣化が目立つわけですが じゃぁ「低い、低い」って一体いくつなのさ? ってね。 JENのcry baby SUPERの入力インピーダンスが実際にいくつなのかっていうのは、聞いたことが無いです。 今ここで、全ての謎が明かされます。 でました。DIV=0.1Vで、これは0.42Vといったとこですね。 55.5kΩ ÷ 0.42V × (1V-0.42V) = 76.6kΩ です。 四捨五入して77kΩです。 よって、JENのcry baby SUPERの入力インピーダンスは、実測で77kΩ。 許容誤差範囲を考慮すると、69kΩ〜84kΩといったところですね。 やっぱ「低い、低い」って言われてるだけのことはあって、これはかなり低いですよね。 これでは信号の劣化どころか音量まで下がってしまうわけです。 可変抵抗器によるボリュームを付けて77kΩの位置まで音を絞ってしまうようなイメージですね。 ただ、もちろん電気的には前にバッファを入れるなりするのが正解ではありますが、 芸術の世界では「品質の悪さ」が「味」になることはしばしばあります。 「少しでもあの時代の音に近づけたい」という気持ちが、当時の音や機材を尊重する気持ちにさせます。 「古いエフェクターを使う」ということは「歴史を使う」ということでもあると思います。 モデファイするのか、それとも「芸術作品」としてこのまま使うのかは、自由です。 では、これらの “入力インピーダンスが公表されていないエフェクター” も、表にしてみましょう。
入力インピーダンスの比較(2)
入力インピーダンスが公表されているものはどれも「R in」の値がそのまま入力インピーダンスになっていましたが、 入力インピーダンスが公表されていないものは、 どれも単純に入力部分の「R in」の値がそのまま入力インピーダンスというわけではないものばかりですね。 本当はこういうエフェクターの入力インピーダンスこそ、メーカーはカタログ・スペックとして公表すべきだと思うのですが。
〜〜〜【 番 外 編 】〜〜〜
最後に・・・メーカーの公表が間違っていると思われるものを2つ紹介します。 まずはRATです。 RATは入力インピーダンスが1MΩであると公表されています。 メーカーのHPにも2013年6月現在、5種類のRAT(RAT2、Turbo RAT、You Dirty RAT、Deucetone RAT、‘85 Whiteface RAT) の仕様が掲載されていますが、入力インピーダンスは全て1MΩであると記されています。 このRATはLM308N搭載、LED付きの「RAT2」です。 sobbatのDB-2と同様、正弦波ではなくて三角波になってますね。 DIV=50mVで、185mVです。 55.5kΩ ÷ 0.185V × (1V-0.185V) = 245kΩ です。 カタログ公表値が1MΩに対して、実測値が245kΩです。 入力部分はこのようになっています。 2.2MΩがGNDとBIASで並列になってます。 BIASの100k分圧を考慮してもしなくても合成抵抗で約1.1MΩになりますが sobbatのDB-2と同様、この入力部にはコンデンサが並列に入っていますので、当然インピーダンスが下がるはずで 実際、合成抵抗の約1.1MΩから245kΩに下がっています。 10%程度の許容誤差を見込んでも220kΩ〜270kΩですね。 つまり、理論的にみても、実測の結果をみても、私が出した結論は RAT2の入力インピーダンスは1MΩではなく、245kΩ程度である。 ということです。 また、「Vintage RAT(The Rat (ver. 2) の復刻版)」の入力部分はこのようになっていて、RAT2とは多少異なります。 結果は見えてますが、一応「Vintage RAT」を自作して確認してみました。 (製作の詳細はこちら→ No.24「Proco / RATの製作」) やはりRAT2と全く同じで DIV=50mVで、185mVです。 55.5kΩ ÷ 0.185V × (1V-0.185V) = 245kΩ です。 つまり、「Vintage RAT」も「RAT2」も、入力インピーダンスは1MΩではなく、245kΩ程度だということです。 Procoさんはおそらく、この間違いに気付いていないものと思われます。 今後発売する全てのRATシリーズについても 「入力インピーダンス=1MΩ」 と公表するでしょう。 あたたかく見守りたいと思います。 もうひとつ、メーカーの公表値が実際とは異なるものがありました。 BOSSのコンパクト・グラフィック・イコライザー、GE-7です。 取説には入力インピーダンスが1MΩと書かれていますが・・・ DIV=20mVで、100mVです。 55.5kΩ ÷ 0.1V × (1V-0.1V) = 500kΩ です。 入力部分の「R in」に該当する抵抗器はJAPAN製とTAIWAN製で基板のレイアウトがかなり異なり、 JAPAN製はR29、TAIWAN製はR32が「R in」に該当します。 このTAIWAN製のR32も、JAPAN製のBOSSの「SERVICE NOTES」の回路図のR29も、どちらも470kΩになっています。 実測で500kΩになりましたので、「R in」の抵抗器の470kΩに対しては少し誤差が出てしまいましたが このカーボン抵抗器は許容誤差が±5%ですから470kΩなら447kΩ〜494kΩになるということもありますので 多少の誤差は多めに見ることとします。 ただ、「R in」が470kΩで実測500kΩということは、 BOSSのGE-7の入力インピーダンスは470kΩと1MΩのどちらですか?というと、470kΩですね。 1MΩではありません。 一応大手メーカーですから、取説にも 「製品の仕様及び外観は、改良のため予告なく変更することがあります。」という記載がありますが、 GE-7の「R in」の抵抗値はもともとが470kΩなので、改良のために予告なく変更したのとは違いますね。 天下のBOSSでも凡ミスするんですね。 まぁミスといっても取説の数値が間違ってるだけで、本体は入力インピーダンスが470kΩでも問題ないんですけどね。 冒頭でも述べましたが、 入力インピーダンスに限らず、電子回路について色々なことを実際に実験して確認するということは 理論と現象が合っていることを再確認したり、新たな発見があったりと、理解を深めるのにとても役立ちます。 今までにも、当たり前のことを確認するだけの実験など、HPでは紹介していない実験もたくさんやってきましたが、 これからも色々な実験をしていきたいと、あらためて思いました。 2013.6.25 |
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